酔いどれ男のさま酔い飲み歩記②~どっぷり大阪初飲み歩き・・・まだまだ!
ひとり旅にはお似合いの一人酒を、面白おかしいエピソードでつづる体験談エッセイ「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」。第2回「どっぷり大阪初飲み歩き・・・まだまだ!」のタイトルで、第1回のつづき、大阪での酒場巡りを掲載します。
※飲み歩き当時を綴ったエッセイなので、お店の情報など現在と異なる場合があります
はじめに
初めての大阪飲み歩きの昼酒で、名酒場「明治屋」の洗礼を浴びたが、そんなことで動じているわけにはいかない。本当の大阪を知るためには、大阪のタウンをさ迷い歩いてみないことには始まらないのだ。
明治屋を後にしてから大阪の鎮守様である住吉大社に参拝し、さまざまなお願いに加えて飲み歩きの安全無事も祈願。そのあとは、日帰り温泉施設に立ち寄って昼酒のアルコールを抜く。酔いが醒めてさっぱりすれば、また酒が美味くなる。
さてと、夜の大阪のまちに繰り出すとするか。
鶴橋「ホルモン空」~一人酒にやさしい焼き肉
道頓堀に宿を取っているので、夜の街に繰り出すならミナミがいい。なんば界隈はすぐ近くだし、法善寺横丁も渋そう。宗右衛門町や心斎橋に繰り出す手もある。だが、私はあえてミナミではなく、下町の風情があるまちを選択した。
なんばから地下鉄で3駅、鶴橋で下車する。この駅は、東西に地下鉄と近鉄、南北にJR環状線が走っており、東京でいえば秋葉原と同じ構造になっている。駅の南東側にはディープで庶民的なコリアンタウンがあるが、今夜はそこが目的ではない。
鶴橋界隈で飲もうか?と問えば、万人が焼き肉やホルモンと答えるだろう。私もそんな万人の一人である。ただし、一人酒では焼き肉を食うのはしんどい。それでも、お一人様にやさしい店ってあるものだ。
それが「ホルモン空」である。
この店は有名店のようなので、開店時間に合わせて行ったのだが、それにもかかわらず店内は満席で、さらに数人並んでいた。いつもなら「並んでまで食いたくない」と、ケツを割って立ち去るところだが、それでは来たかいがない。
並んで待つ辛抱の時間を経て、ようやく席に着くことができた。この店がお一人様にやさしい理由は、一皿が他店の半分程度の量で、その分いろいろな部位が食べられることにある。まずは何を置いても生ビールからだ。
メニューを見ると、聞いたことがない部位ばかり。訳が分からないままに、うちわ(のどぼとけ)、ホソ(小腸)、カルビすじの三つを注文した。ちなみに店の公式ホームページによると、うちわとカルビすじは希少価値トップスリーに入っていた。
今でこそ、一人焼き肉というのが通好みのようだが、この頃は焼き肉店に一人で入る客はほとんどいない。満席の店内でも私一人だけだ。当たり前だが、焼き肉は自分で焼かなければ食べられないので、落ち着いて飲んでいるヒマはない。
これ以上食べてしまうと、飲み歩きに影響する。これにて店を出るとするか。本当は、もっと食べてみたい部位がいろいろあった。名残惜しい。
京橋「京屋本店」~呑んべえたちの仲間入り
鶴橋から大阪環状線に乗り、京橋駅で降りる。京橋は飲み歩き天国のようなまちである。今夜は、座ってゆっくり飲むタイプの大衆酒場に行ったが、京橋の真価を味わうのであれば、立ち飲みの店がいい。それは、いずれ機会があればエッセイでたっぷり語ろう。
そこで、今回来店したのが「京屋本店」だ。
店先に「アサヒ生ビール」とデカデカ書いたのれんがかかり、酔客を誘い込む。店内には長いカウンター席とテーブル席があり、みんな美味そうに酒を飲んでいる。そんな仲間に早く加わりたかったので、カウンターの一角に陣取って生ビールから飲むか。
大阪の大衆酒場では、たいてい「付き出し」はない。そして、注文を取るのが非常に早いので、「えーっと」などと迷っているヒマもない。困ったときは、とりあえず「どて」を頼めばいいが、ここではホタルイカの沖漬けと小柱のかき揚げを注文した。
ビールを飲み干せば、次は日本酒。熱燗で一杯やろう。肴には「きずし」がいい。きずしとは聞き慣れない言葉だが、魚を酢締めしたもので、たいてい「しめさば」のことを指す。作り置きができるので、注文とほぼ同時に出てくるのが嬉しい。
同じ酒場でも、明治屋のような古色蒼然とした雰囲気ではなく、庶民が集ってワイワイと飲んでいるのが心地よい。ホルモン空では落ち着けなかったが、ここでテンションが一気に上がってきた。さあ、もう一軒行くか。
天満「酒の奥田」~まだまだ「顔」じゃない?
京橋から再度大阪環状線に乗り、昼酒の口明けをした天満にやって来た。実は七福神で飲んだ後、駅界隈をぶらついていたら「これは面白そうだ」という店を見つけていたのだ。ただ、その時は入る勇気がなく、店先を通り過ぎてしまった・・・なぜか。
それは、私のような若造(といっても40代だが)が入るには、あまりにも激渋であり、いわゆるディープな店だったからだ。でも、酔っている今なら平気の平左である。
その店の名は「酒の奥田」。
「酒の奥田」は、界隈でも激安の立ち飲みの店として知られており、カウンター内では数人の店員が右往左往しながら、注文を受けたり、料理を作ったりしている。店員はおっちゃん、おばちゃんばかりであるが、それが酒の奥田のウリだったのだ。
カウンターの一角に陣取り、日本酒とクジラのショウガ煮でしのぐ。この店は肴(あて)が安いのがウリ。店員も年配者が多いが、お客さんも年配者ばかり。私なんぞ、まだまだ「顔」じゃないな、と苦笑させられたが、だからといって浮いているわけでもない。
そのうち、おばちゃん店員が「だれか天ぷら食べへんか?」と売り込みを始めた。どうやら、ネタが余りそうだったので揚げてしまったらしい。お客の一人に無事引き取られ、事なきを得たが、こんなやり取りが頻繁に行われている店なのだろう。
外観のディープさだけでは分からない人情酒場。早く激渋酒場が似合う年齢になりたいものだな。
ごっそうさん!
(2006年10月忘備録)
エッセイでご紹介した店舗(食べログページにリンク)
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