酔いどれ男のさま酔い飲み歩記⑱~「バリィさんのいない今治のまちへ」
ひとり旅にはお似合いの一人酒を、面白おかしいエピソードでつづる体験談エッセイ「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」。第18回「バリィさんのいない今治のまちへ」のタイトルで、愛媛県今治市での飲み歩きを掲載します。
※飲み歩き当時を綴ったエッセイなので、お店の情報など現在と異なる場合があります
はじめに
四国への旅は高知ばかりだったので、たまには違うところにも足を運ぼう。やって来たのは愛媛県。その東部にある今治市は、本州と四国を結ぶしまなみ海道の四国側玄関口だ。ただし今回のひとり旅では海道は通らず、ずぶ濡れになりながら「讃岐うどん」を食い、それから愛媛入りしたのだ。
今治の名物といえば、今治タオル、今治焼き鳥、そして「バリィさん」である。もっとも、この時の旅行はバリィさんが誕生する前で、お目にかかれない。そういえば、バリィさんは鳥がモチーフで、焼き鳥好きとか。共食いだな、こりゃ。
ならば、今夜は今治焼き鳥で一杯やろう!
今治「山鳥」~せんざんきのバリッとした味
今治焼き鳥の話をする前に、今治タオルについて語る。今でこそ、ブランドタオルとして全国的な知名度を誇るようになったが、旅行当時はそれほどでもなかった。いや、私が知らなかっただけかもしれない。「たかがタオルだろ?」くらいの感覚だった。
それが証拠に、今治観光物産館で販売されているタオルの値段が高くて驚いた。が、せっかく来たので1枚買っていこう。手に取ったのは浴衣姿の女性がプリントされているタオル。濡らすと、女性がヌードになるとか。しょうもない。買ったきり、試してもいない。
余談はさておき、今治一人酒を始めよう。
今治名物の今治焼き鳥は、焼きとりと書かなくても大丈夫。正真正銘の鳥料理だからだ。事前にいくつかの店をピックアップし、ホテルのフロントでも情報を得て、やって来たのは「山鳥」。人気店のようで、すぐに満席となった。
口明けはビールと皮焼き。今治焼き鳥は、おなじみの串刺しではなく、鉄板焼きスタイルだ。鉄板に鳥肉を乗せ、たれを絡ませて、コテのような鉄の重しをかぶせて焼く。ジュージューと香ばしい音がするのが心地よい。
山鳥には刺し身もあるという。ただし、板前がいないと出せないとか。板前は出勤が遅いので、この時間ではムリ。頭のなかは焼き鳥だけだったので、魚料理を食べようとは思っていないからいいや。
ビールを飲み干し、次は焼き鳥用に開発したという「伊予水軍鶏」という日本酒を所望。合わせる肴は「せんざんき」だ。この地方独特の鳥料理だとのことだが、見た目には鶏のから揚げっぽい。ちなみに漢字だと「千斬切」と書くそうだ。
揚げたてのせんざんきにかぶりつく。バリィならぬ「バリッ」とした香ばしさとタレ味の効いた揚げ物は、ふだん食べているから揚げとは別物。美味いじゃないか。今治焼き鳥の奥深さを思い知らされた。板前が来ても、魚料理は頼まなくていいや。
今治「五味鳥」~女将と大将の個性が際立つ
1軒だけで今治焼き鳥を語るのは、グルメを自称する者としてはしのびない。せっかく来たのだから、もう1軒寄ってみるか。ピックアップしていた店のなかから、老舗と言われている「五味鳥」に行ってみよう。
山鳥が割烹居酒屋風だったのに対し、五味鳥は街なかの大衆酒場という感じで、こちらの方が落ち着ける。年配のご夫婦と若い男性が切り盛りする家族経営のようで、お客さんもご常連っぽく、アットホームな雰囲気だ。
カウンターの一角に陣取り、焼酎水割りと皮焼きを注文。皮焼きは今治焼き鳥の初っ口には欠かせない。山鳥でも同じパターンだったが、まあいいだろう。山鳥よりも身が付いたボリューミーな皮焼きで美味い。でも、純粋に皮の味を楽しむなら山鳥かな?
素人の評価なので、参考にはしないでほしい😅
女将さんは口が悪そうだったが、それが店の個性に現れている。大将は黙々と焼き鳥を焼いている頑固おやじっぽい。店の雰囲気に馴染めるかどうかは、客次第というところ。 私はというと、大阪の大衆酒場で慣れっこなので、全然平気だよ。
追加は、焼酎のお湯割りととりもつ。お湯割りは、アルマイトの容器に焼酎とお湯をそれぞれ分けて提供してくれる。客は好みの分量で割れるのでありがたい。とりもつは、塩とコショーで味付けたシンプルさがいい。繰り返すが、今治焼き鳥は奥が深いぞ。
今治のバー「Shu」~耳寄り情報もキャッチ
今治焼き鳥を腹いっぱい食べた。もう1軒はしご、とは行けそうにない。むろん、海鮮料理も食べられない。繁華街の酒場は店じまいも比較的早いようで、これといった店が見当たらない。なら、バーにでも寄ろう。「Shu」という店に飛び込んだ。
バーに入ったら、まずはジントニックを頼め。これが太田和彦さんの流儀だそうだ。吉田類さんなら「おススメはありますか?」と聞くところだろう。あの頃は太田流にハマっていたので、流儀に従ってまずはジントニックからいく。
グイッとグラスを空けて焼き鳥の脂(油)を流すと、早くも二杯目へ。吉田さん流にならって「オリジナルカクテルをいただけますか?」と聞く。マスターは戸惑いながらも、ジン&カシス&ウイスキーのショートカクテルを作った。現在開発中という。
少し落ち着いてきたので、旅の話などをする。酔っ払っているので、何をしゃべったのかは覚えていない。いつものことなので、まあいいだろう。それでも、一つだけしっかりと記憶しておきたい情報を得た。
「宇和島へ行かれるならコックテールがおススメです」
マスターはまだ若そうだったので、コックテールという店は、自分が目指すスタイルのバーなのかもしれない。明日は宇和島で一人酒をする。おススメされたら行くしかないだろう。
マスターのほか、20代と思われるバーテンもおり、活気にあふれるバーである。カクテルに続いて、折紙の舞という芋焼酎のロックをチビリチビリとやりながら、店の雰囲気に酔いしれる。本日のひとり旅はアクシデント続きで散々な目に遭っていたが、終わり良ければ総て良しだな。
明日、宇和島の夜のシメはコックテールに決まり!
(第19回につづく)
(2007年10月忘備録)
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