酔いどれ男のさま酔い飲み歩記⑤~最北のまち稚内の贅沢な夜
ひとり旅にはお似合いの一人酒を、面白おかしいエピソードでつづる体験談エッセイ「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」。第5回「最北のまち稚内の贅沢な夜」のタイトルで、北海道稚内市での酒場巡りを掲載します。
※飲み歩き当時を綴ったエッセイなので、お店の情報など現在と異なる場合があります
はじめに
大阪、東京を離れ、当エッセイ初の地方旅行編である。
いろいろな旅先のなかで「わざわざ、ここまで来た」と感慨新たになるようなところは数少ない。そのうちの一つが、北海道最北端の稚内市だ。初めての旅行は列車を乗り継いでやって来たので、本当に感無量となり、涙が出そうになった。
11年後、2度目となる今回の稚内来訪。飛行機で一気にやって来たし、初めてではなかったので「わざわざ感」はない。それでも、遠路はるばるには違いない。稚内一のゴージャスなホテルも取った。最北のまちでの飲み歩きが今始まろうとしている。
稚内「はせ川」~ホテルで夕食よりも・・・
私だけが感じていることなのかもしれないが、地方都市で気の利いた居酒屋を探し出すのは難しい。なぜなのか。ご当地の郷土料理や地域の高級食材にこだわるあまり、地元密着の安い酒場は二の次になってしまうからだろう。
稚内での飲み始めも、やはり「美味しいもの」視点での店探しとなった。三方を海に囲まれているまちなので、海の幸が美味いに決まっている。手っ取り早く食べるのであれば寿司屋がいい。「はせ川」という店に入った。
寿司屋での注文の仕方は「おまかせ」の一択。
付け加えるなら「地物をお願いします」の一言だけ。あとは「つまみ」すなわち刺し身でいただくか、「握り」を頂戴するかだけである。
むろん、酒はしっかりと選ばせてもらう。寿司には日本酒と決めているので、旭川の男山純米「最北航路」という稚内限定の銘柄を飲む。そして本日は、つまみではなく、最初からおまかせで握ってもらう。
順にボタンエビ、ホタテ、ヒラメの縁側、ホッキ貝、バフンウニ、イクラ、シャコ、スルメイカ、カズノコ。稚内で水揚げされた地物ばかり。この日店で仕入れたネタをほぼ一通り出してもらった。東京などでは、こういう寿司の食べ方はまずしない。
私とほぼ同時に来店したご夫婦がいた。夕食付のホテルに泊まっているが、「ホッキが食べたかったので」と出向いてきたという。夫婦が帰った後、ご主人が「旅行に来たのだから、ホテルで夕食なんか食べない方がいいのにね」とつぶやいた。
その言葉には私も同感である。都市部に泊まる時には、ホテルは素泊まり、もしくは朝食のみというプランにする。旅先で楽しむべきグルメの選択肢を自ら狭めることはない。
※このお店は閉店したようです
南稚内「るぱん」~話好き若主人との一期一会
稚内駅前の寿司屋を選んだのには理由がある。稚内駅で「最北端駅到達証明記念切符」を買うためだ。でも「鉄道に乗りもしないで買うのはしのびない」と後ろめたさもある。それなら1駅でも乗ろうと思い、停車中の列車に乗り込んだ。
稚内の次は南稚内駅。駅前には何軒か居酒屋があるという事前情報も得ていた。広く閑散とした駅前でうろうろした挙句、駅から一番近い店に飛び込んでみた。居酒屋「るぱん」。風変わりな屋号である。
外観はやや古ぼけた感じで「大丈夫かな」と一瞬思った。が、店内は古風で落ち着いた雰囲気だったので安心した。とりあえず日本酒の北の勝を注文。付き出しは「シシャモとワラビ」であった。
店は、私よりもやや若い男性が一人で切り盛りしていた。このご主人、とても話し好きで、私がカウンターに座るや否や、なんやかんやと話しかけてくる。そして、なかなか話が止まらない。
「料理を注文するタイミングが難しい」と心の声。
間もなく、常連と思われる男女がやってきて、カウンターの私の横に座った。ご主人の話好きはさらにヒートアップし、ますます注文できそうにない。寿司屋で腹八分目になっていたので、このまま付き出しだけでもいいや。旅の話で盛り上がっているところだし。
明日の夜は浜頓別に泊まる。そのことを話すと、女性が「私の出身ですよ」と喜んで、いろいろと情報をくれた。とりわけ「覆面パトカーのネズミ捕りには注意して」というアドバイスは、レンタカーで旅行している私には貴重だ。ありがとう!
二杯目の酒「鬼ころし」も飲み干した。そろそろ頃合いである。が、「おあいそ」してもらうタイミングはさらに難しい。常連が注文を入れ、ご主人が料理に取り掛かろうとした時を逃さず、「お勘定」と一声。
これが旅行中でなければ、おそらく勘定ではなく、3杯目の注文を入れていただろう。そのくらい、とても居心地のいい酒場だった。ごちそうさま。
余談だが、このエッセイを書くために改めて「居酒屋るぱん」を調べてみたら、なんとご主人は3年ほど前にお亡くなりになっていた。再来訪かなわず残念無念。酒場での出会い、とくに地方都市では、まさに「一期一会」だということを思い知らされた。
稚内「ホテルバーラウンジ」~極上のロケーションに酔う
地方都市にもかかわらず、稚内市内の路線バスは遅くまで走っていた。終電車(といっても19時台だが)の後なので、金はかかってもタクシーやむなしと覚悟していたが、これはラッキーであった。
まだまだ飲み歩きができる余地はあったが、ホテルに戻ってきたのにはわけがある。最上階のバーラウンジで一杯飲むためだ。
窓際のカウンターからは稚内の夜景や宗谷海峡が眺められる極上のロケーション。バーテンにオリジナルカクテルの「流氷」、さらに「フローラ」を作ってもらう。料理はソーセージとガーリックトーストをいただく。
それにしても、バーラウンジからの眺めは抜群である。酔いも手伝っているので、一層テンションが高まっていく。旅行ではできるだけ安くて便利なホテルを選びがちだが、たまにはグレードの高いホテルに泊まるのもいいものだな。
いささか飲み過ぎた。眠くなったのでルームに戻るとするか。
※当時泊まったホテルは、サフィールホテル稚内に名称を改めています
(2006年6月忘備録)
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