酔いどれ男のさま酔い飲み歩記㉕~「漫画で有名になったディープタウン赤羽」

ひとり旅にはお似合いの一人酒を、面白おかしいエピソードでつづる体験談エッセイ「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」。第25回「漫画で有名になったディープタウン赤羽」のタイトルで、東京都北区赤羽での飲み歩きを掲載します。

はじめに

東京都内でディープなまちの代表格は新橋だと思っていた。だが、新橋だけがディープなわけではない。漫画家の清野とおる氏が描いた「東京都北区赤羽」でも紹介されたとおり、赤羽もかなりディープなまち。言い換えれば濃いまちなのだ。

学生時代に友人が赤羽に住んでいて、アパートで乱痴気騒ぎをした青春時代を思い出す。そんなノスタルジーにも、清野とおる氏の漫画にも影響されることなく、先入観なしに赤羽で飲み歩きができるだろうか。

赤羽駅前にホテルを取った。さあ、夜の街に出かけるか。


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赤羽「八起」~チャーメンが人気のワイワイ酒場

今は閉店した八起

赤羽駅東口から大通りを渡ると、「OK横丁」という小路がある。いかにも取ってつけたような名前の横丁だが、由来はよくわかっていないらしい。小路には小さな店が軒を連ねている。でも、営業していない店も多いな。

そのなかに、ひときわにぎわっている店があった。居酒屋「八起」である。これは口開けにはちょうどよさそうだ。早速、店内に潜り込む。カウンターの中には威勢のいい店員がずらりと配置されている。そんなカウンターの一角に陣取った。

ここはガイドブックにも紹介されている人気店。注文はまず中ジョッキ、それから豆もやしとモルモン煮の「盛り合わせ」を頼む。ホルモン煮というのは珍しい。一般的な煮込みとどう違うのか、と期待していたのだが・・・

焼きトンの盛り合わせが出てきた!

店員が勘違いしたのか、いや、そうではない。店で「盛り合わせ」と言うと、焼きトンの方を指すようだ。ちゃんと確認しなかった私も悪い。まあ、焼きトンでもいいや。せっかくだから、「ガツのホルモン煮」を追加しておこう。

この店の名物は「チャーメン」で、周りの客のほとんどが注文して食べている。 モヤシとニラの野菜炒めをチャーハン風に丸く盛り合わせた、店のオリジナルメニュー。次から次へと注文が入るので、中華鍋を振るっている店員は忙しそうだ。

暇つぶしにメニューを眺めていると、「玉炒め」「おっぱい炒め」なるものもある。もちろん「コブクロ炒め」は言うまでもない。チャーメンも含めて、食べてみたいものばかり。でも、この店で完結するわけにはいかない。追加でお茶割りを一杯飲んで店を出た。

後日談となるが、翌年の4月に「八起」へ二度目の来店を果たした。この時はチャーメンを頂戴し、盛り合わせもちゃんと「ホルモン煮」と申し出て注文した。相変わらず、店内は活気があふれ、にぎやかな雰囲気で飲ませてもらったのだ。

だが「八起」来店は、これが最後となった。いつしか、風の便りに閉店したことを聞いた。再々来訪が果たせず残念な気持ちでいっぱいである。

 

赤羽「喜多屋」~怪しげなゾーンにある立ち飲み酒場

OK横丁を出て、赤羽で一番にぎわっている一番街を歩く。ここにも面白そうな店が目白押しなのだが、いったん通り過ぎて駅前まで戻る。赤羽のディープさは酒場だけではなく、風俗店やホテルが点在しているところにも感じる。

目指すのは酒場。それも立ち飲みのようなところがいい。怪しげなゾーンの一角に、立ち飲み「喜多屋」を見つけた。客引きに声を掛けられないうちに入ってしまおう。

入り口は開き戸になっており、そこには「飲み過ぎの方はお断りします」との張り紙が。これはマズい。だが、酔っているけど飲み過ぎてはいない。幸い、酔っても顔に出ない(真っ赤にならない)ので、飲んでいるとは気が付くまい。

飲み物はチューハイレモン。ここは中身と割り材を別々に出してくれ、中身にはレモンが添えられ、なみなみと注がれている。カウンターの前には大皿料理、さらにガラスケースには小鉢物が並ぶ。まるで大阪の酒場に来たような感じがした。

そんなわけで、アジ南蛮、ヒジキ煮、おからハンバーグを注文。さらに中身のおかわりに合わせてベーコン炒めも追加した。いずれも量は手ごろで、しかも安いのはありがたい。

サラリーマン中心にワイワイとにぎやかな雰囲気は、居るだけで楽しくなる。ただし、大阪の酒場とは違う点が一つ。それは店員さんの立ち振る舞いである。大阪は愛想が良くてノリノリ。一方、こちらは愛想はイマイチ。どっちが良いかは一概には言えないな。

 

赤羽「まるます家」~驚きのスッポン鍋でシメ

喜多屋で結構飲んだ感じだったが、もう一軒くらいは回れそうだ。怪しげなゾーンにいつまでもいると、風俗店に引きずり込まれる恐れがある。足早に退散し、再び一番街へと戻ってきた。ここなら安心して飲み歩ける。

OK横丁に来た最初の段階から目を付けていた店がある。知る人ぞ知る「まるます家」だ。超人気店なので、店先に行列ができていて入るのをあきらめたのだが、さすがに夜遅くなってくると行列ができるまでは混んでいない。せっかくだから入ってみよう。

変則的な形のカウンター席に座り、ウーロンハイとスッポン鍋、しらすおろしを頼む。注目すべきは、高級料理のはずのスッポン鍋。ここでは1000円でお釣りがくる値段で食べられる(注・2012年当時)。これは驚きのほかにはない。

ただ、さすがに値段相応だった。

スッポンの身はわずかしか入ってなく、コラーゲンたっぷりのはずのスープも淡泊なまま。まあいいだろう、気分だけ味わえれば。ちなみに、スッポンだけでなく、ウナギやコイの洗いといった川魚料理も出している。

おそるべきことに、「まるます家」は朝から営業している。漫画「孤独のグルメ」の五郎さんは、この店でご飯を食べているが、呑んべえなら朝でも酒でしょ?

(2012年1月忘備録)

赤羽「喜多屋」
赤羽「まるます家」

※「八起」は閉店しました

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