酔いどれ男のさま酔い飲み歩記㉒~「大阪の酒場で出会った個性的なご常連」

ひとり旅にはお似合いの一人酒を、面白おかしいエピソードでつづる体験談エッセイ「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」。第22回「大阪の酒場で出会った個性的なご常連」のタイトルで、大阪市飲み歩きでの愉快な思い出を掲載します。

※飲み歩き当時を綴ったエッセイなので、お店の情報など現在と異なる場合があります

はじめに

2011年11月7日の災難は忘れられない。追突交通事故に遭い、軽いムチ打ちと診断された。1週間後に旅行を計画していたが、もちろんオジャン。「どうしてくれる!」というやり場のない怒りも沸いたが、示談になったのでこれ以上言うまい。

ムチ打ちも癒え、どこかへ出かけたい気分になってきた。同じ旅行先にするわけにもいかず、結局は「大阪飲み歩き」に落ち着いた。別に「飲まずにはいられない」わけでもない。一から計画するのが面倒なだけだったのだろうな😓

大阪飲み歩き、ほなボチボチ出発するか。


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十三「吾菜場」~電車で通う常連の爺さま

今回は前泊せず、午前中は大阪までの移動に費やした。昼にはまだ早いが、いきなり口開けをしたい。新幹線の新大阪駅から近い十三へと繰り出す。酒飲みゾーンなので、午前中でも開いている店は多々ある。そのうちの一つ、居酒屋「吾菜場」に入る。ここは24時間営業、いつでも飲めるのだ。

午前中にもかかわらず、酔客でほぼ満席状態。空いているカウンターの一角に陣取る。この店ではサッと飲んで、パッと出るつもりだったので、注文は熱燗ときずしだけ。この先の行動に向けた情報収集のため、スマホをいじくり始める。

「電話を新しい機種にするのにどのくらいお金がかかるんかね?」。隣にいた爺さまにいきなり声を掛けられた。これをきっかけに、少しばかり世間話をする。

爺さまは御年80歳と自称する。

とてもそんなお歳には見えないほど若々しい。爺さまは、この店のご常連のようで、「電車で通っているんや」と笑う。酒も昔ほどは飲めなくなったらしいが、それでも吾菜場通いは日課になっているという。

私は常々「ジジイになっても飲み歩きたい」を口癖にしている。爺さまのような先達を見ると、模範にしたくなる。もう少し爺さまと話がしたかったのだが、次の予定も控えている。後ろ髪を引かれる思いで店を後にする。

 

新世界「時」~常連から驚くべき注文が飛ぶ

十三から一気にミナミの新世界へと歩を進める。ちょうど昼時、ジャンジャン横丁の有名串カツ店には行列がズラリ。毛頭、そんなところに並ぶ気はさらさらない。

おっちゃんたちご用達の立ち飲み酒場も結構混んでいる。でも、回転が速いので並ぶ必要はない。空いているなと思ったら、サッと入ってしまえば勝ち。そのなかの1軒、立ち飲み「時」という、ちょっと変わった屋号の店に飛び込む。

生ビールを注文。よそでは中ジョッキくらいの値段なのに、大ジョッキで出てきたのにはビックリ。目の前で煮込まれているおでんが美味そうだ。大根、牛すじ、厚揚げを頼む。大根はトロトロに煮込まれ、味が染みているぞ。

店内のお客は、ほとんどが一人酒。それも例外なく私よりも年配者ばかり。もうじき50歳になろうかという私でさえ、この店では若輩者なのだ。ご常連と思われる一人のオヤジが、高飛車な物言いで酒を注文する。だが、店主は動じない。

すると・・・オヤジが「ものまね!」と一言。

「何を言っているんだ、このオヤジ」と思ったのは私だけか。さすがに店主も10秒ほど考えていたが、やがて料理を用意し出した。見たら「コロッケ」だった。ものまね=コロッケとは、ぶったまげた。思わず笑ってしまいそうになった。

でも、周りの客はオヤジには無関心だった。こんな光景は日常茶飯事なのだろう。オヤジは、何事もなかったかのように、コロッケを肴に酒を飲む。いやはや、大阪のディープ酒場は奥が深すぎるな。

 

動物園前「大万」~店の歴史を語る常連さん

短時間ながら、あまりにも濃厚だった「時」での一杯。酔っぱらったわけではないが、一息入れたい。新世界でインターバルを取るなら、スマートボールがいい。適度に遊んで、ようやく落ち着きを取り戻した。

ジャンジャン横丁には、まだまだ面白い店がたくさんある。だが、私の足は酒場を次々と通り過ぎ、やがて横丁を抜け、大通りも横断する。お目当てがあるのだ。ここまで来て、大通りに面した超激安酒場「大万」を外すわけにはいかないだろう。

おばあさんが、ちょうど店開きした直後だった。すでにご常連と思われるおっちゃん2人が飲んでいた。その間に割って入るように腰掛ける。この店の超ディープさにも慣れっこになった。小瓶のビールを頼み、ホルモンと串カツを注文する。

ホルモン、串カツは10円値上げしていた!

値上げといっても、30円が40円になっただけなので、界隈一の激安には変わりない。もちろん、味が変わったわけでもない。今回は、少しお高い品のホルモンカツも頼んだ。お高いといっても100円でお釣りがくる値段だ。

先客のご常連は「ここのが一番うまいんや」と言う。「そうか?」と思いつつ、ご常連と話が弾む。この方は、京都からわざわざ大万に通っているのだそうだ。まさに、筋金入りの常連さんである。さらに、大万の歴史も語ってくれた。

曰く、おばあさんの連れ合いが戦後、店を開いたそうだ。その昔は、店員が4人並んで、串カツを揚げたり、ホルモンを焼いたりしていたという。おそらく、その当時から店構えは変わっていないのだろう。人に歴史あり、店にも歴史ありだ。

その間に、缶ビールを手にしたおっちゃんがふらりと店に現れた。おっちゃんは座りもせず、40円の串カツ1本を注文。その場で食べて、すぐに立ち去った。こんなことが出来るのは、大万くらいだろう。

今日は個性的なオヤジを何人も見た。大阪の底知れない部分を見せつけられた気がする。この後の夜飲み、そして翌日の飲み歩きも楽しみでならない。(第23回へつづく)

(2011年11月忘備録)

エッセイでご紹介した店舗(食べログページにリンク)

今回ご紹介の酒場は、残念ながらすべて閉店しています

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