酔いどれ男のさま酔い飲み歩記㉔~「島原の郷土料理と楽しい人々との出会い」

ひとり旅にはお似合いの一人酒を、面白おかしいエピソードでつづる体験談エッセイ「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」。第24回「島原の郷土料理と楽しい人々との出会い」のタイトルで、島原半島での飲み歩き・食べ歩きを掲載します。

はじめに

島原半島は旅先としてはかなり遠いイメージがある。博多から長崎本線で諫早まで行き、そこから島原鉄道に乗って1時間ちょっとかけてようやく島原市へたどり着く。このルートしかないと思っていたら、実は盲点があった。

九州の人なら当たり前だと思うだろうが、島原市へ行くなら熊本から高速船やフェリーで渡る方法もある。バスと高速船の接続が良ければ、熊本駅から1時間で島原港へ到着する。このルートを知って、島原半島のひとり旅を決行した。

島原市に泊まるので、名物料理で一杯やるか。


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島原の郷土料理でお昼ごはん~具雑煮と六兵衛

島原鉄道

旅行記ではないので詳しい旅程は書かないが、夜酒の話をする前に、島原市内でお昼に食べた郷土料理について触れておく。一つは「具雑煮」である。

具雑煮とは餅の入った鍋料理で、見た目がとても豪快。肉、魚、野菜をふんだんに盛り込み、その上に丸い餅をドッカと乗せて煮込む。島原の乱で籠城した農民たちが、栄養をつけるためにあらゆる食材をごった煮にしたのがルーツとのことだ。

さっぱり味のスープは関東風の雑煮を思い起させる。ボリューム満点のようにも見えるのだが、野菜がたっぷり入っているので、旅行中の身にはうれしい。

もう一つは「六兵衛」という名の料理。

これは、具雑煮とは対照的なシンプルな一品。サツマイモを粉末にして山芋を混ぜてこね、麵状に細長くしたものをだし汁で煮る。江戸時代に山が大崩落した災害で飢饉に見舞われた島原の人々が考え出した、生きるための知恵なのだ。

正直、六兵衛はあまりおいしくない。天かすやワケギで味にインパクトを付けているが、しょせんはサツマイモである。まあ、美味い不味いを言う料理ではないのだろうな。

 

島原「ほうじゅう」~ガンバ料理と若女将

さて、夜の一人酒の話をしていこう。有明海に面しているので海の幸が豊富なことは予想がつく。せっかく島原市に来たのだから、もう一つ郷土料理をいただくとしよう。その名は「ガンバ料理」である。

ガンバ料理とはフグ料理のこと。猛毒を持つフグは、江戸時代の藩主がフグ食禁止令を出していたという。にもかかわらず、「ガン(棺桶)」を傍らに置いてまでしてフグを食べたという人々の心意気と食道楽から由来している。

棺桶のお世話になりたくはないが、私だってフグは食いたい。高級食材なので基本的には予約が必要だが、予約なしでも食べられる店があるとの情報をキャッチ。やってきたのが、天下の味処を銘打つ「ほうじゅう」 である。

若女将がコース料理を勧めてくれたので、唐揚げ、湯引き、がねだき、ふぐ寿司。それから「てっちり」か「てっさ」かの二択で「てっさ」を頂戴する。合わせる酒は、地元の浦川酒造が作るこの店オリジナルラベルの地酒。

聞き慣れないのが「がねだき」である。がねとはカニのこと。カニが泡を吹くようにブクブク煮込んだフグの煮つけで、かなり甘辛く仕上げてある。それから湯引きであるが、ニンニク醤油に梅肉を合わせた調味料でいただくのが島原流とのことだ。

若女将から島原の暮らしについて根掘り葉掘り聞いた。

島原の人たちがショッピングに出かけるときは、県庁所在地の長崎ではなく、熊本市に行くそうだ。長崎は遠すぎるとのことである。ちなみにテレビ番組も熊本のローカル放送が流れている。島原の方々にとって熊本は本当に身近なのだ。

雲仙普賢岳災害の時のことも聞いた。直接的な被害は受けなかったが、年中火山灰が降ってきて、洗濯物が汚れて大変だったという。火山のふところに住む人は大変だ。でも温泉とか、湧き水とか恩恵を受けているのも事実だな。

さて、そろそろシメといくか。ほうじゅうの名物であるふぐ寿司(ガンバ寿司)をちょうだいする。腹いっぱい、大満足。ごちそうさん。

 

居酒屋「まどか」から「ジャズスポットろふと」へ~鬚マスターが待ち受ける

お腹は膨れたが、まだまだ酒は飲める。2軒目は居酒屋「まどか」という店に入った。海鮮はじめ、品数揃った雰囲気のよさそうな店である。ただ、カウンター席の位置取りがまずかった。両側に1組ずつ夫婦がおり、その真ん中に座ってしまったのだ。

両夫婦ともそれぞれ盛り上がっているところに割り込み、ちょうど「ノリ損ない」状態になった。決してお店が悪いわけではない。こういうタイミングとバツ悪さには、たまに遭遇してしまう。それでもシメサバを頂戴しながら、地酒の萬勝を2杯飲んだ。

食べるほうは十分なので、あとはお酒をじっくり飲もう。ならばバーがいい。ちょうど「まどか」の近くに「ジャズスポットろふと」という店があり、飛び込んでみた。店構えからして、たぶん「当たり」の店だろう。

店は髭づらのマスターが一人で切り盛りしており、私が一番乗りのお客。お互い初見ということで、まずはマスターも私も様子見から。挨拶代わりにジントニックを頂戴する。これはいつもの太田和彦氏流儀のマネである。

やがて、一人また一人とお客がやって来る。地元のご常連ばかりだ。私の隣には運良く女性客が座る。このころにはマスターにも、店の雰囲気にも慣れてくる。酔っているのではいつも通り、ベラベラと勝手気ままなことをしゃべっていたに違いない。

鬚マスターの特技はマジック。私の目の前でお得意の技をご披露する。私は私で大げさに驚いてみせる。それをご常連たちが笑い飛ばす。こりゃ楽しい。まさにピタリとはまった店になった。当然、ヘベレケに酔っぱらってしまったことは言うまでもない。

思い出に残る島原の夜、ありがとう。

(2008年2月忘備録)

島原市「ほうじゅう」
島原市「まどか」
※「ろふと」は営業確認ができませんでした

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