酔いどれ男のさま酔い飲み歩記㉛~「サブカルやオタクだけじゃない渋い秋葉原」

ひとり旅にはお似合いの一人酒を、面白おかしいエピソードでつづる体験談エッセイ「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」。第31回「サブカルやオタクだけじゃない渋い秋葉原」のタイトルで、東京秋葉原の酒場を掲載します。

はじめに

秋葉原の印象・・・昭和の学生時代は電気街だった。それは今も変わらないが、だんだんとオタクが集まる街に変わっていく。そこに、メイド喫茶なる風俗が生まれ、今ではサブカルチャーの聖地と言われるようになった。

若者文化の最前線を走っている秋葉原。だが、奥へ入り込んでいくと、昔ながらの渋い酒場の顔が見えてくる。サブカルには疎い中年男だが、古い酒場だったらお手のもの。メイド喫茶も気になるが、大衆酒場はもっと気になって仕方がない。

ならば、飲み歩きに繰り出すとするか。


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秋葉原「百飲」~全品100円の驚くべき立ち飲み

最初にちょっとだけ余談を書く。実は秋葉原のメイド喫茶に一度だけ行ったことがある。一人で入る勇気はもちろんないので、友人たちと連れ立って勢いのまま突入した。

アルコールではなく、ソフトドリンクを注文。メイド服のウエイトレスが品物を運んできて、一緒におまじないをしてほしいとおねだり。友人たちが見ている前で「おいしくな~れ」と言うのは照れ臭かったな・・・

本題に戻そう。口開けは秋葉原駅にほど近い立ち飲み「百飲」から。今は残念ながら閉店してしまったが、ビルの2階にある狭いスペースにお客がギッシリ。立ち飲みなので、客一人当たりの面積は少なくても大丈夫だ。

この店のウリは「全品100円」の安値である。

肴が100円というのは激安酒場なら珍しくない。だが、アルコール類まで100円は驚きだ。早速、キッチンカウンターにずらりと並んでいる肴から、アジの南蛮漬け、ホタルイカの粕漬け、フライドポテトをチョイスした。

肴を選んでから、最後に酒を注文するシステムのようだ。口開けだったが、底冷えしていたので日本酒の熱燗を頂戴する。これで合計400円か。ビックリな値段だな。

日本酒の徳利は小さめでやや水っぽかったが、100円ならご愛敬の範疇だ。肴の方も、この値段でこれだけ食べられればオンの字という量。場所柄か背広姿のサラリーマンがほとんどで、みんなワイワイと楽しそうに飲んでいる。

日本酒を飲み終え、もう一杯いただこう。カミナリハイボールだ。これは電気ブランのハイボールのことで、地方ではあまり見かけない。電気ブランは口当たりがいいので、うっかり飲み過ぎるととんでもない目に遭う。ついでにモズク酢も頂戴するか。

これだけ飲んで、食べても、千円でお釣りがくる。 驚くべき激安である。これで商売が成り立つのかとも心配したが、お客の出入りが多いので大丈夫だろう。と、その時は思ったが、心配が当たってしまい残念である。

秋葉原「おかめ」~身も心も温ったまるご常連酒場

百飲を出てから、電気街とは逆方向の浅草橋方面へと歩く。若者が多い華やいだエリアから、だんだんと酔客がうろつくディープなゾーンへと入っていく。そんなガード下付近にある渋そうな立ち飲み「おかめ」 に入ってみよう。

どうやら昔ながらの酒場のようである。時間的にお客がちょうどピークだったので、辛うじて入り口近くに陣取る。さて、何を飲もうかと店内に目を凝らすと、およそ店の雰囲気とはミスマッチなエレキギターやハードロッカーの写真がずらりと並ぶ。

カウンターの奥には大将、それから愛想のいい兄さんが切り盛りしている。兄さんに声を掛け、芋のお湯割りとおでん、焼き物のトリ皮、カシラ、砂肝を注文する。これまたリーズナブルな値段でありがたい。

一人が店を出ると、すぐに次のお客がやってくる。客同士はみんな顔なじみらしく、入って来る人は例外なく挨拶を交わす。そして注文はせず、当たり前のように保冷庫から缶チューハイを出し、自席に戻って飲み始める。

私は一見なので声を掛けられない。だからといって奇異な目でも見られない。店内で飲んでいれば、誰でもみんな飲み仲間。この雰囲気こそが大衆酒場の良さなのだ。

大将も強面だが気配りが素晴らしく、私が入り口で窮屈そうに飲んでいたら、席が空いた奥のカウンターを片付けて「こちらへどうぞ」と声を掛けていただいた。ありがたいじゃないですか。席を移動し、追加で緑茶割りをいただこう。

とても心地よ過ぎて、思わず長居をしたくなるような酒場。 でも、せっかくの飲み歩きなんだから、もう一軒くらい寄りたいな。後ろ髪を引かれるけど、店を出よう。

秋葉原「赤津加」~喧騒とは無縁の落ち着いた名酒場

このエリアには、「おかめ」に負けず劣らぬ良さげな大衆酒場がまだまだある。そうした店を訪ね歩くのは次の機会にして、秋葉原と言ったら外せない名酒場に向かう。知る人ぞ知る有名店なので、ひょっとしたら入れないかもしれないがダメ元だ。

その店の名は「赤津加」。電気街の真ん中にありながら、古き良き昭和の雰囲気を外観から漂わせている酒場だ。今回が二度目の来訪。幸い、カウンターに座ることができた。

まずは熱燗を注文。続いて、名物の煮込みを頼んだが、残念ながら売り切れ御免。ならば、数の子と水菜の和え物で軽くしのごう。激安ながらも前二軒でそれなりに食べたので、名店には申し訳ないが、この程度でちょうどいい。

それにしても、ここは本当に秋葉原なのか。

中年オヤジが付いていけないようなサブカルの街ならではの喧騒とは無縁の異空間。他のお客さんも静かに酒をたしなんでいる。大衆酒場の賑やかな雰囲気もいいが、こういう酒場の落ち着きもまた味わい深い。時のたつのを忘れてしまいそうだ。

赤津加、やはり名酒場だった。店を出てからホテルまでは電気街を歩かねばならない。セーラー服を着たコスプレギャルが客引きをしているのを横目で見ながら通り過ぎる。間違っても、ふらふらと付いて行ってはいけないなと思いながら・・・

(2013年1月忘備録)

秋葉原「百飲」※残念ながら閉店しました
秋葉原「おかめ」※残念ながら閉店しました
秋葉原「赤津加」


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